彫り屋の裏話

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 TOP > 彫り屋の裏話 > 一章
 


とある夏の日のことである。
私の本業は自由業、いや細かいことは控えよう。
とある会社に専属で仕事を頂戴し10年以上になるが、その会社の社長が非常に面倒見が良く、社員と同じような扱いをして頂いている。
その元請けの納涼会に誘われた時のことである。
納涼会、普通であったら近所で行うのが常であるが、社長太っ腹、隅田川の屋形船で行うことになった。
山梨を出発するのがが午後一、そんな早くに出掛けてどうするのか?
屋形船は夜ではなかったのか?
誘われたときに疑問があったのだが、田舎者の従業員を抱える社長、そこは気を遣ったのだろう。
お台場、浅草、最後に屋形船とういうコースでその日を過ごす予定を組んで頂いたのである。
生で初めて見るフジテレビ、ナントカというビルを田舎者は目を丸くして、アッチをウロウロ、コッチで迷子・・・。
次に行った浅草。

ここで初めて木札と出合う事になる。
バスから降り、仲見世に向かう。
門を通り、社長と数人の社員の方と同行させて頂き、アチコチの店を金もないのに覗いて歩く。
そのうち社長と二人きりになった。
社長の足が止まる。
「ねえねえ、竹ちゃん(私はそう呼ばれています)、これいいと思わない?」
「ん!?」
初めて木札のストラップと出合った瞬間である。
小さな木板に、自分の名前が彫ってあるその木札はマニアックなところも良いが味があり一目で気に入った。
だが、値段を聞いてビックリ!!
現在、「彫り屋」で販売しているサイズ、それも片面彫りで2400円!
その上送料別途で数日かかると言う。
社長と見つめ合い、いや、必然的にそうなったのであるが、値段とその場で出来ない事を知り、二人は買うことを断念したのである。
その後、アサヒビールの横の店で社長と飲みながら木札の話をした。
まさか、この時は自分で売ろうとは思いもしなかった。
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